「バイリンガル」と聞くと、日本語と英語をどちらもネイティブのように操り、どんな話題でも同じように読み書きできる人を思い浮かべるかもしれません。
しかし、言語研究で使われる「バイリンガル」は、それほど狭い言葉ではありません。二つの言語を同じレベルで完璧に使えることだけを意味するのではなく、生活の中で二つの言語を必要に応じて使う人も含まれます。
この記事では、バイリンガルの意味や基準、第二言語を話せる人との違いを整理します。そのうえで、大人の英語学習者が「バイリンガルになれるか」より先に考えたい、現実的な目標の決め方を解説します。
英語コーチング歴約20年。自身も英会話スクールで挫折した後、ほぼ独学で英語を身につけ、米国大学院でMBAを取得。外資系企業4社で英語を使って勤務してきました。現在は英会話スクール「b わたしの英会話」と英語コーチング「be:RIZE」を運営し、日本語を母語とする大人が、英語を実際に聞き、話せるようになるための学習設計を行っています。
「バイリンガルでなければ英語を使えるとは言えない」と考える必要はありません。大切なのは肩書きではなく、自分が必要とする場面で、必要な処理ができることです。
英会話スクール「b わたしの英会話」・英語コーチング「be:RIZE」創業者
バイリンガルとは?二つの言語を使う人
バイリンガル(bilingual)とは、一般に二つの言語を理解したり、使用したりする人を指します。「bi」は「二つ」、「lingual」は「言語の」という意味です。
ただし、どこからをバイリンガルと呼ぶかについて、世界共通の一つの合格点があるわけではありません。
バイリンガル研究で知られる言語学者フランソワ・グロジャンは、バイリンガリズムを「日常生活における二つ以上の言語・方言の使用」と捉えています。この考え方では、二つの言語をまったく同じ水準で使えることよりも、実際の生活で複数の言語を使っていることが重視されます。
例えば、次の人たちは能力の形が違っても、広い意味ではバイリンガルと考えられます。
- 家庭では日本語、職場では英語を使う人
- 両親とは中国語、学校や友人とは日本語で話す人
- 読む仕事は英語でできるが、日常会話は日本語の方が得意な人
- 海外生活で現地語を日常的に使っている人
バイリンガルに明確な基準はある?
結論からいうと、「この試験で何点ならバイリンガル」という絶対的な基準はありません。研究、教育、採用、本人の自己紹介など、目的によって見方が異なります。
主に確認されるのは、次のような要素です。
1.二つの言語をどのくらい使っているか
毎日使うのか、週に数回なのか、過去に使っていたのか。家庭・仕事・学校・地域など、使用する場面も重要です。
2.どの技能を使えるか
言語能力には「聞く・話す・読む・書く」があります。四技能がすべて同じレベルの人ばかりではありません。
3.どんな内容を扱えるか
家族との日常会話はできても専門的な文書は読めない人もいれば、論文を読めても雑談になると言葉が出にくい人もいます。
4.どの程度、自立して用件を達成できるか
完璧な文法や発音ではなくても、聞き返したり、言い換えたりしながら必要なやり取りを完了できるかという見方です。

バイリンガルは二つの言語を同じレベルで話せる人?
必ずしもそうではありません。二つの言語をほぼ同程度に使える人は、バランス・バイリンガルと呼ばれることがあります。しかし、それはバイリンガル全体の一つのタイプです。
多くの人には、より得意な言語である優勢言語があります。また、言語ごとに担当する場面が異なります。
| 使用場面 | 使う言語の例 | 発達しやすい能力 |
|---|---|---|
| 家庭 | 日本語 | 感情、生活、家族の話 |
| 仕事 | 英語 | 会議、メール、専門用語 |
| 読書・学習 | 両方 | 読む力、抽象的な語彙 |
この人が英語で家族の思い出を話しにくかったり、日本語で英語圏の業務用語をすぐ言えなかったりしても不思議ではありません。能力不足というより、その言語で経験してきた領域が違うからです。
第二言語を話せる人とバイリンガルの違い
この二つの間に、はっきりした境界線があるわけではありません。ただし、言葉が注目している部分は少し違います。
| 表現 | 主に表すこと |
|---|---|
| 第二言語を話せる人 | 母語以外の言語で会話する能力を身につけた人。学習歴や技能に焦点がある |
| バイリンガル | 生活や仕事の中で二つの言語を使い分ける人。言語使用の全体像に焦点がある |
例えば、英語を勉強して旅行会話ができるようになった人は、「英語を第二言語として話せる人」と自然に説明できます。仕事や家庭でも日本語と英語を継続的に使い分けているなら、「バイリンガル」と呼ばれることも増えるでしょう。
しかし、これは資格の昇格ではありません。本人がバイリンガルと自認するか、周囲がどう呼ぶかによっても変わります。
バイリンガルにもさまざまなタイプがある
同時バイリンガル
幼少期から二つの言語に触れ、並行して身につけた人です。例えば、両親が異なる言語を話し、家庭と社会でも両方を使う場合があります。
継起バイリンガル
最初の言語をある程度身につけた後、二つ目の言語を学んだ人です。移住や留学、大人になってからの学習などが含まれます。
受容バイリンガル
二つ目の言語を聞いたり読んだりすれば理解できるものの、話す・書く力は相対的に弱い人です。家庭で親の言語を聞いて育ち、自分は別の言語で返すケースなどがあります。
専門領域型のバイリンガル
仕事、研究、スポーツ、接客など、特定領域では第二言語を高度に使える人です。日常の雑談より専門的な会議の方が話しやすいこともあります。
英語がペラペラならバイリンガル?
「ペラペラ」は日常語であり、客観的な基準ではありません。発音が自然で止まらずに話せる人を指すこともあれば、自分の用件を英語だけで達成できる人を指すこともあります。
一方、バイリンガルかどうかを見るときは、話す流暢さだけでは足りません。
- 相手の英語をどの程度理解できるか
- 必要な情報を読んだり書いたりできるか
- どの場面で、どの頻度で英語を使うか
- 分からないときに会話を調整できるか
- 日本語と英語を目的に応じて選べるか
発音がネイティブらしくなくても、仕事を英語で進められる人はいます。反対に、日常会話が滑らかでも、専門的な読み書きは難しい人もいます。外から聞こえる「ペラペラさ」と、実際に使える範囲は同じではありません。
大人になってからでもバイリンガルになれる?
幼少期から二言語に触れた人と、大人になってから第二言語を学ぶ人では、習得の経路や強みが異なります。しかし、バイリンガルを「二つの言語を生活の中で使う人」と捉えるなら、大人からでも十分に目指せます。
大人の学習者には、すでに母語で獲得した知識、経験、論理的な理解力があります。発音や無意識の処理に時間が必要でも、目的を絞って語彙・文構造・音声・発話をつなげることができます。
詳しい習得の考え方は、第二言語習得論とは?研究でわかった英語学習の原則と日本人に必要な工夫で解説しています。
「バイリンガルになる」より、使える場面を決める
「バイリンガルになりたい」という目標は魅力的ですが、そのままでは学習範囲が広すぎます。次のように具体化すると、必要な練習が見えます。
- 海外の取引先との30分の会議で、自分の担当部分を説明する
- 旅行先で予定変更やトラブルに対応する
- 海外ドラマを英語字幕で理解する
- 外国人の友人と、近況や気持ちについて話す
- 英語のメールを読み、自分で返信する
同じ「英語を使える」でも、必要な語彙、文法、音声処理、発話速度は違います。まず必要な領域を一つ作り、そこで聞く・話す・読む・書く処理を育てます。その領域が増えるにつれて、二つの言語を使う生活へ近づいていきます。
英語をマスターしようとすると挫折する|自分に必要な英語の決め方も、目標を絞る際に参考になります。
バイリンガルを目指す大人の学習手順
- 使う場面を一つ決める:仕事、旅行、友人との会話などから選ぶ
- 英語の骨格を理解する:主語と動詞を前から取り、情報を後ろへ足す
- コア単語を場面と結ぶ:基本動詞・前置詞・助動詞を使える形にする
- 理解できる英語を聞く:文字、音、意味を同じ素材で結びつける
- 自分の内容へ置き換えて話す:短い文から始め、止まった箇所を記録する
- 相手や条件を変えて再利用する:一つの表現を別の状況でも使えるようにする
知識を増やすだけでは、会話中に取り出せるようになりません。一方、基礎なしで話す量だけを増やしても、同じ表現や誤りに偏りやすくなります。インプットとアウトプットを往復しながら、処理を少しずつ自動化することが大切です。
よくある質問
Q.TOEIC何点ならバイリンガルですか?
TOEICスコアだけでバイリンガルかどうかは決まりません。試験は一定の技能を測る目安にはなりますが、日常生活や仕事で二つの言語をどう使っているかまでは一つの点数で表せないからです。
Q.英語を話せても読み書きが苦手ならバイリンガルではありませんか?
読み書きが弱いバイリンガルもいます。反対に、読み書きは高度でも会話経験が少ない人もいます。四技能の強さが均等である必要はありません。
Q.帰国子女とバイリンガルは同じですか?
同じではありません。帰国子女は海外生活から帰国した経歴を表す言葉です。海外経験があっても二言語を継続して使わない人もいれば、海外在住経験がなくても二言語を使う人もいます。
Q.二か国語を話せれば自分をバイリンガルと呼んでもよいですか?
法的な資格ではないため、名乗るための公式条件はありません。ただし、履歴書や採用場面では「バイリンガル」とだけ書くより、英語で対応できる業務、使用年数、資格や具体的な経験を示す方が正確です。
まとめ|バイリンガルは「二言語とも完璧な人」だけではない
- バイリンガルとは、広くは二つの言語を生活の中で使う人
- 二つの言語を同じ水準で使えることは必須ではない
- 聞く・話す・読む・書く能力は、言語や使用場面によって異なる
- 第二言語を話せる人とバイリンガルの間に絶対的な境界線はない
- 大人は「バイリンガル」という肩書きより、英語を使いたい場面を決めると学習しやすい
バイリンガルかどうかを判定することより、自分が必要とする場面で英語を理解し、言葉を取り出し、相手と用件を達成できるかを見る方が実用的です。小さな使用領域を一つずつ増やすことが、結果として二つの言語を使う生活につながります。
参考にした主な資料
- François Grosjean, Bilingualism: A Short Introduction
- APA, Bilingualism Across the Lifespan: Factors Moderating Language Proficiency
- Kroll et al., Bilingualism, Mind, and Brain
be:RIZEでは、肩書きや試験スコアだけを目標にせず、英語を使いたい場面と現在のボトルネックから学習順序を設計します。英文の骨格、コア単語、リスニング、発話をつなぎ、自分に必要な英語を実際の会話で使える状態へ育てます。
学習方法を一度整理したい方は、個別相談の前にご確認いただきたいことをご覧ください。



