「今度こそ、英語をマスターしたい」
英語学習を始めるとき、多くの人がそう考えます。ところが、この立派に見える目標が、かえって挫折しやすい学習を作ってしまうことがあります。
単語も文法も発音もリスニングも必要。日常英会話ができたら、次はニュースや映画も理解したい。仕事で使えるようになり、ネイティブとも自然に話したい。こうして範囲を広げていくと、どれだけ学んでも「まだ足りない」が残ります。
こんにちは。be:RIZE代表のしゅみすけこと、大山俊輔です。僕は約20年、英会話スクールと英語コーチングの現場で、大人の英語学習を見てきました。
今回は、英語をマスターすることを諦めよう、という話ではありません。輪郭のない「英語全体」を追いかけるのをやめ、自分の生活で本当に必要な英語を先に決めよう、という話です。
「英語をマスターする」は、ゴールに見えてゴールではない
マスターという言葉には、明確な合格線がありません。
- 旅行先で困らず話せること
- 仕事の会議で意見を言えること
- 映画を字幕なしで楽しめること
- 専門的な交渉を英語で進められること
- ネイティブのように自然に話せること
これらはすべて違う能力です。必要な語彙も、聞き取る音声も、練習する場面も違います。それを一つの「英語力」としてまとめ、全部できる状態を目指すと、学習の終わりが見えなくなります。
以前の記事で、日本人の英語習得に2200時間必要という説を整理しました。そこで基準になりやすいのは、高度な職業運用を含む英語力です。でも、海外のホテルで希望を伝えたい人や、月に一度の英語会議で進捗を報告したい人に、外交官と同じ到達点は必要ありません。
目標が大きすぎると、今日の学習が決まらない
「英語をマスターする」という目標の問題は、難しいことだけではありません。今日、何を練習すればよいか決められないことです。
単語帳を開く。文法書も気になる。発音動画を見る。オンライン英会話も予約する。どれも英語学習としては間違っていません。しかし、自分が英語を使う場面と結びついていなければ、教材を渡り歩きやすくなります。
一つひとつは頑張っているのに、どこへ近づいているのかわからない。その状態が続けば、手応えを得る前に疲れてしまいます。
挫折の原因は、意志の弱さとは限りません。終点のない計画を、毎日意志力で動かそうとしていることにもあります。

自分に必要な英語を決める5つの質問
必要な英語は、試験の級や漠然とした「ペラペラ」からではなく、現実の場面から逆算します。次の5つを順番に考えてみてください。
1.どこで英語を使うのか
まず、場所を一つ選びます。会議室、オンライン会議、出張先、旅行先、地域の集まり、家族との会話。場所が変われば、必要な英語も変わります。
「いつか海外で」ではなく、「次の海外出張で」「月曜の定例会議で」と具体化できるほど、練習内容は絞れます。
2.誰と話すのか
相手はネイティブとは限りません。海外支社の同僚、取引先、ホテルのスタッフ、友人の家族など、相手との関係によって会話の丁寧さや専門性が変わります。
同僚と短く確認し合う英語と、顧客へ提案する英語は別です。相手が見えると、必要以上に難しい表現を集めなくて済みます。
3.英語で何を達成したいのか
「話せるようになる」ではなく、会話の後に何が実現していれば成功かを決めます。
- 会議で自分の進捗を1分で報告する
- 聞き取れないときに確認し、会話へ戻る
- 旅行先で希望と困りごとを伝える
- 初対面の人と10分ほど会話を続ける
ここまで具体的なら、必要な単語、文型、聞き返し表現、練習相手を選べます。
4.どのくらいの頻度で使うのか
毎日使う英語と、年に一度の旅行で使う英語では、かける時間の配分が違って当然です。
頻度の低い場面は、必要な表現を準備し、見返せる形にしておく方法でも対応できます。すべてを瞬時に言えるように暗記する必要はありません。
5.今、どの動作で止まっているのか
必要な場面を想像したら、自分が止まる場所を一つ見つけます。
- 相手の英語が音として聞こえない
- 聞こえるが、意味を処理している間に遅れる
- 言いたい内容はあるが、英語が出てこない
- 一文は言えるが、その先の会話が続かない
- 間違いが怖くて話し始められない
「英語力が足りない」では広すぎます。しかし、「会議で急に質問されると、最初の一文が出ない」なら練習できます。
必要な英語は、小さな完成形で考える
目標を絞ることに、後ろめたさを感じる人もいます。「そんな低い目標でよいのか」「簡単な英語だけでは成長できないのでは」と思うかもしれません。
でも、これは英語の可能性を小さくすることではありません。最初の完成形を作ることです。
たとえば、次のように決めます。
3か月後、週1回のオンライン会議で、自分の担当業務を1分で報告し、わからない質問には聞き返して確認できる。
この目標なら、進歩を確かめられます。できるようになったら、理由を説明する、質問へ詳しく答える、雑談を加える、と次の範囲を広げればよいのです。
英語全体を完成させてから実践するのではありません。必要な場面ごとに、小さく使える状態を増やしていきます。
「必要な英語だけ」でも、土台は使い回せる
場面を絞ると、その場面専用のフレーズを丸暗記するだけになりそうですが、そうする必要はありません。
I think、I need、Could you、What do you mean? のような基本表現は、仕事、旅行、日常会話で何度も使えます。頻出する基本動詞、前置詞、助動詞と、短い文を組み立てる土台を身につければ、場面が変わっても応用できます。
つまり、学ぶ範囲は絞っても、身につける仕組みは狭くありません。使う場面から入り、そこで必要になった共通土台を育てる。その順番なら、勉強のための英語が、生活で使う英語へつながります。
僕も「英語が得意な人」から始まったわけではありません
僕は中学時代、英語が学年最下位でした。大学でも英語を再履修し、大手英会話スクールは1か月で挫折しています。
その後、海外大学院や外資系企業で英語を使うようになりましたが、最初から英語全体をマスターできたわけではありません。その時々で必要だった英語を学び、使い、足りないところを次に補ってきました。
だから僕は、英語学習のスタート地点で「最終的にどこまで行くか」を完璧に決めなくてもよいと思っています。まず、今の生活を少し変える一場面を決めればよいのです。
英語をマスターするのではなく、英語でできることを増やす
英語は広大です。母語話者であっても、すべての単語や専門分野を知っているわけではありません。ですから「英語を全部身につける」を合格条件にすると、いつまでも自分を未完成だと感じます。
代わりに、次の順番で考えてみてください。
- 英語を使いたい一場面を選ぶ
- 相手と達成したいことを決める
- 自分が止まる動作を見つける
- 必要な表現と技能だけを練習する
- できるようになったら範囲を一つ広げる
必要時間の数字が気になる方は、まず2200時間説の前提と、1万時間の法則が日常英会話にそのまま当てはまらない理由を整理してみてください。そのうえで、最初の100時間で変えることを決めると、今日の練習が具体的になります。
学習を続ける段階では、意志力に頼らず続く環境を作る方法があります。途中で途切れても、何度でも再開できる設計に戻せます。手応えがなくなったら、停滞期で何が起きているかを点検できます。
目標を現実に合わせることは、妥協ではありません。英語を「いつか完成させる大事業」から、「今の自分が使える道具」へ戻すことです。
まずは、「英語を話せるようになりたい」の後ろに、一つだけ具体的な場面を書き足してみてください。そこから、あなたに必要な英語が見えてきます。
さらに詳しく知りたい方へ
英語学習に必要とされる時間の前提と、現実的なコミュニケーション目標の作り方は、拙著『あなたは英語に時間をかけすぎている』で詳しくお話ししています。
また、強い意志で自分を動かすのではなく、行動が自然に起こる流れを作る考え方は、『続いてしまう環境―Willpower(意志力)の終焉とCurrent(流れ)への回帰』にまとめました。習慣構築の具体的な入口から読みたい方は、『英会話をマスターするには続けるしかない!』もどうぞ。
自分に合う学習の順番を整理したい方へ
一人では現在地や優先順位を決めにくい場合は、be:RIZEの無料相談で行うことをご覧ください。入会を前提にせず、面談で何を整理するのかを確認できます。


