英語を独学しようと思って書店へ行くと、単語帳、文法書、発音本、リスニング教材が何百冊も並んでいます。スマートフォンを開けば英語学習アプリがあり、YouTubeでは「これだけで話せる」「最短で伸びる」という勉強法が次々に流れてきます。
選択肢が多いことは、本来ならよいことです。しかし実際には、教材を選ぶだけで疲れたり、評判のよい教材を次々に試したのに、聞く・話す力へつながらなかったりします。
英語教材を選ぶとき、最初に決めたいのは「本・アプリ・YouTubeのどれが一番よいか」ではありません。
誰が、どんな英語を、何のために身につけたいのか。その段階で必要な役割を、どの教材に担当させるか。ここから考える必要があります。
こんにちは。be:RIZE代表のしゅみすけこと、大山俊輔です。僕は英語が話せなかった頃、単語や文法をばらばらに学び、ベルリッツにも通いましたが、3か月ほどでついていけずに撃沈しました。その後、英語の骨格、基本単語の感覚、リスニング、発話を自分なりに組み直し、ほぼ独学で英語を身につけました。
現在は英会話・英語コーチングの現場に約20年関わり、YouTubeでも大人向けの英語学習を発信しています。だからこそ、教材を紹介する側の言葉を、そのまま正解として受け取らないことも大切だと考えています。僕の動画や意見も含めて、発信者の肩書ではなく、自分の目的と変化に照らして判断してください。
この記事では、大人の日本語母語話者が口語英語、つまり聞く・話す英語を身につける前提で、本・アプリ・YouTubeの役割と選び方を整理します。
英語独学全体の見取り図は、大人の英語独学完全ガイドでも確認できます。
英語教材は「おすすめランキング」より先に目的を決める
教材選びで最も起きやすい失敗は、「有名だから」「英語ができる人がおすすめしていたから」という理由だけで始めることです。
同じ英語でも、目標によって必要な教材は変わります。
- TOEICの点数を上げたい
- 英語の論文や契約書を読めるようになりたい
- 海外旅行で要望を伝えたい
- 仕事の会議で短く発言したい
- 海外ドラマを聞き取りたい
- 外国人と日常会話を楽しみたい
試験で正解を選ぶ教材と、会話の速度で英語を処理する教材では、役割が違います。文章を正確に読むための文法知識は役立ちますが、それだけで音声が聞こえたり、言いたいことが口から出たりするわけではありません。
今回の前提は、日本語を母国語とする大人が、口語英語を聞き、話せるようになることです。この3条件を外さないだけでも、教材候補はかなり絞れます。
英語ができる人の勉強法が、そのまま自分にも合うとは限らない
英語ができるようになった過程は、人によって異なります。
- 幼少期を海外で過ごした
- 留学や海外赴任で大量の英語へ触れた
- 受験英語を徹底的に学んだ
- 洋画や音楽が好きで長年触れていた
- 仕事で使う必要に迫られた
- 独自に試行錯誤した
どれも本人にとっては本当の経験です。しかし、本人に効果があった方法が、別の条件を持つ学習者にも再現できるとは限りません。
特に帰国子女や幼少期から英語環境にいた人は、語順、音、意味のつながりを無自覚に身につけていることがあります。本人に英語力があっても、「日本語だけで成人した人が、どこで処理につまずき、何をどの順番で作り直せばよいか」を自分の経験だけから説明するのは難しい場合があります。
英語ができる能力と、大人の日本語母語話者が英語を身につける過程を説明する能力は、同じではありません。
これは帰国子女やネイティブ講師を否定する話ではありません。発音や自然な表現、実際のやり取りを学ぶうえで大きな力になります。ただし、学習設計まで一人の成功体験へ委ねないことが大切です。
YouTubeで多くの人が似た勉強法を紹介する理由
英語学習の動画を見続けていると、紹介される方法が似ていることに気づきます。
- 単語を毎日覚える
- 中学英文法をやり直す
- シャドーイングをする
- オンライン英会話を受ける
- 毎日継続する
これらは、すべて間違いではありません。問題は、誰が、どの段階で、何のために行うかが省かれやすいことです。
「毎日3時間やる」「できるまで何百回も繰り返す」という気合型の助言は、説明する側にも受ける側にも分かりやすいものです。伸びれば方法が正しかった、伸びなければ努力や継続が足りなかった、と処理できます。
しかし、それでは教材や学習順序が合っていたかを検証できません。以前の記事英語の独学が続かない理由でも触れたように、意志を増やす前に、できることが増える設計になっているかを確認する必要があります。
本・アプリ・YouTubeは競争相手ではなく、役割が違う

「本よりアプリ」「今はYouTubeだけで十分」という比較をよく見かけます。しかし、媒体ごとに得意な仕事が違います。どれか一つへ全部を任せるより、役割を分けたほうが教材迷子になりにくくなります。
本の役割|学習の地図と体系を持つ
本の強みは、情報が一定の順序で整理され、前後のつながりを確認しやすいことです。
- 英語の骨格や文法を体系的に理解する
- 必要なページへ戻って確認する
- 例文へ書き込み、自分の理解を整理する
- 学ぶ範囲の全体像を持つ
特に英文法や英語の構造は、短い動画を次々に見るより、一冊の薄い本で全体を見たほうが整理しやすい場合があります。
一方、本には弱点もあります。音、話者の口の動き、実際の会話の速度、場面ごとのニュアンスは紙面だけでは分かりにくくなります。また、詳しい本ほど、会話にはまだ必要でない項目まで学びたくなります。
本を選ぶときは、厚さや網羅性より、次を確認してください。
- 対象が大人の学び直しか
- 読解・試験用か、会話用か
- 説明の後に音声と発話練習があるか
- 一冊の役割を自分で言えるか
「この本で英語を全部学ぶ」のではなく、「この本は、英語の骨格を確認するために使う」と役割を限定します。
アプリの役割|短い反復と記録を日常へ入れる
アプリの強みは、すぐに開けて、短い反復を行いやすいことです。
- 基本単語や表現を繰り返す
- 音声を聞いて選ぶ
- 発音を録音する
- 忘れた項目を再提示してもらう
- 学習記録を残す
通勤や待ち時間に5〜10分使うには便利です。覚える対象が明確なら、紙の単語帳より反復回数を確保しやすい人もいるでしょう。
一方、アプリは「今日の課題」を自動で出してくれるため、なぜ今それを学んでいるかを考えなくても進められます。連続学習日数、点数、リーグなどが目的になると、アプリは続いていても、会話で使えることが増えていない場合があります。
アプリは学習計画そのものではなく、計画の中にある小さな反復装置として使うのがおすすめです。
YouTubeの役割|音・場面・頭の使い方を目で確認する
YouTubeの強みは、文字だけでは伝わりにくいことを、音声と映像で確認できることです。
- 実際の音やリズムを聞く
- 発音時の口や喉の使い方を見る
- 基本単語の感覚を場面で理解する
- 映画や海外ドラマの会話を繰り返す
- 英語を前から処理する様子を図解で見る
たとえば、英語の骨格を確認するなら、しゅみすけの「英語は3パターンだけ」、基本単語を日本語訳ではなく感覚で捉える例として「I have a pen=私はペンを持っている、ではありません」があります。
インプットへ進む段階では、海外ドラマ『フレンズ』を使った英語学習や、長文リスニングとネイティブの「足し算脳」のように、実際の英語を材料にした動画が役立ちます。
ただし、YouTubeには大きな弱点があります。おすすめ欄から別の動画へ移り続けると、知識は増えても学習が一本につながりません。話し方が魅力的な人、英語が流暢な人、再生回数が多い動画が、自分の現在地に合うとは限りません。
YouTubeは「次に見る動画」を選ぶ場所ではなく、今の課題を解決する一本を探す場所として使いましょう。
教材を選ぶ6つのチェックポイント
1.誰のための教材か
子ども、帰国子女、試験受験者、日本語母語の大人では、前提が違います。「初心者向け」だけでなく、どの初心者を想定しているかを確認します。
2.どんな英語を目標にしているか
読解、試験、作文、日常会話、ビジネス会話では必要な処理が異なります。聞く・話すことが目的なら、音声と発話へ接続できる教材を選びます。
3.今の段階で必要か
よい教材でも、順番が早すぎれば使いにくくなります。骨格が曖昧な状態でフリートークだけを増やしたり、ほとんど聞こえない音声でシャドーイングを始めたりしても、負荷が大きくなります。
4.その教材の役割を一文で言えるか
「この本は英文の骨格を確認する」「このアプリは基本動詞を反復する」「この動画は音と場面を結びつける」のように説明できれば、教材同士が競合しません。
5.インプットからアウトプットへつながるか
分かったところで終わらず、自分の話へ置き換え、声に出し、録音し、後で会話で試せるかを確認します。
6.数週間後の変化を観察できるか
教材を終えたページ数ではなく、聞こえる音が増えたか、短い文を前から出せるか、同じ骨格を別の場面で使えたかを見ます。
大人の口語英語なら、教材はこの順番で組み合わせる
僕が日本語母語の大人へ教材を組むなら、最初からネイティブとの会話だけを増やすのではなく、次の順序でつなぎます。
- コア単語:基本動詞・前置詞・助動詞を、日本語訳の一覧ではなく中心感覚で理解する
- 英語の骨格:主語と動詞を先に置き、情報を後ろへ足す処理へ慣れる
- 必要な文法:使いたい場面を広げるために、必要な項目だけを足す
- リスニング:理解した骨格と単語が実際の音でどう流れるか確認する
- アウトプット:自分の内容へ置き換え、短く話して録音する
- 実際の会話:準備した英語が相手へ伝わるか試し、必要な修正を受ける
この順番なら、本、アプリ、YouTube、英会話は一つの流れの中で役割を持ちます。
- 本で骨格と必要な文法を整理する
- アプリで基本単語や表現を短く反復する
- YouTubeで音・場面・処理の流れを確認する
- 一人で録音し、実際の会話で伝わり方を試す
基本単語の全体像は英会話で使えるコア単語の考え方、リスニングの手順は英語リスニングの勉強法、一人で行う発話練習は英語を独学で話せるようになる練習法で詳しく解説しています。
最初にそろえる教材は3つで十分
教材を選び直すとき、何冊も買い直す必要はありません。まずは次の3役があれば進められます。
- 地図:骨格と必要な文法を確認できる薄い本または体系的な教材
- 反復:基本単語・音・短文を繰り返せるアプリや音声
- 実例:実際の会話を場面と一緒に確認できる動画
そして、同じ内容を発話へつなげます。今週getを学ぶなら、本で使い方を整理し、アプリで短文を反復し、動画やドラマでgetが使われる場面を聞き、自分の生活についてgetを使って話します。
教材の数を増やすのではなく、同じ英語を理解・音・場面・発話へ通すことが大切です。
教材を変える前に確認したいこと
教材が合わないと感じたら、すぐに次の人気教材へ移る前に、どこで止まったかを確認します。
- 内容が難しすぎたのか
- 目的と教材の役割が違ったのか
- 説明は分かったが反復が足りなかったのか
- 音声を聞かず、文字だけで進めたのか
- 自分の言葉へ置き換える工程がなかったのか
- そもそも今のボトルネックと別の教材だったのか
教材を替えるべき場合もあります。ただし、教材名を替えただけで、同じ学び方を繰り返していれば、同じ地点で止まりやすくなります。
一人で判断しにくい範囲については、英語独学の限界はどこ?一人でできること・確認が必要なことも参考にしてください。
まとめ|教材ではなく、教材同士のつながりを選ぶ
本、アプリ、YouTubeのうち、どれか一つが正解なのではありません。
- 本は、学習の地図と体系を持つ
- アプリは、短い反復と記録を日常へ入れる
- YouTubeは、音・場面・頭の使い方を目で確認する
そして、教材を選ぶ前に確認したいのは、次の3点です。
- 自分は日本語母語の大人として、何をできるようになりたいか
- 今の段階で、何の機能が不足しているか
- その教材を、次の音声・発話・実践へどうつなげるか
YouTuber、講師、帰国子女、英語学習の成功者には、それぞれの経験があります。しかし、その人の成功談を集めることと、自分の英語力を作ることは別です。
気合と根性で一冊を完走するより、自分に必要な役割を教材へ持たせ、できることが増えているかを観察してください。教材選びの目的は「正解の一冊を当てること」ではなく、自分の学習を、聞く・話すところまで一本につなぐことです。
教材を増やしても、何を優先すればよいか分からない方へ
be:RIZEでは、しゅみすけ(大山俊輔)がセッションを担当し、今お持ちの教材も含めて、どこで処理が止まっているか、何を残し、何をいったん外すかを整理します。
独学でそのまま進められる部分も含めて、教材と学習順序を一度確認したい方は、個別相談の前にご確認いただきたいことをご覧ください。



