海外営業を任されたものの、英語で商談を進められる自信がない。商品説明は準備できても、相手から想定外の質問が来ると答えられない。価格や納期の交渉になると、さらに言葉が出てこない——。
海外営業に必要なのは、ネイティブのような流暢さではありません。相手の状況を聞き、課題を理解し、自社の提案を示し、条件を調整して、次の行動を合意する力です。
つまり、「英語力」だけを漠然と高めるより、商談・プレゼン・交渉という営業プロセスから逆算して英語を準備する方が、仕事の成果につながります。
この記事では、日系企業の海外担当、外資系企業の日本法人、代理店営業、海外展示会や出張で商談する人までを想定し、海外営業に必要な英語力と勉強法を具体的に解説します。
海外営業に必要な英語力を5つに分ける
海外営業の英語力は、単語数やTOEICスコアだけでは測れません。実務では、次の5つを英語で行えるかが重要です。
- 準備する:顧客、業界、競合、商談目的を調べ、仮説を立てる
- 聞く:相手の状況、課題、意思決定基準を質問する
- 提案する:相手の課題と自社の価値を結びつける
- 交渉する:価格、納期、数量、仕様、契約条件を調整する
- 合意を残す:決定事項、担当者、期限、次の行動を文書化する
英語が上手でも、商品の説明だけを一方的に続けて相手の課題を聞けなければ、営業としては弱くなります。逆に、簡単な英語でも適切な質問をして、合意を正確に確認できれば、商談を前へ進められます。
海外営業で英語を使う主な場面
1.初回面談・関係づくり
自己紹介、会社紹介、面談の目的、相手の役割を確認します。雑談力も役立ちますが、長く話す必要はありません。相手への関心を示し、自然に本題へ移る力が大切です。
2.ニーズのヒアリング
現在の状況、困っていること、理想の状態、導入時期、予算、関係者を聞きます。海外営業では「話す力」ばかり注目されますが、成果を左右するのは質問と聞き取りです。
3.商品・サービスの説明
機能を並べるだけではなく、「相手の課題にどう役立つか」を説明します。技術的な特徴、導入方法、サポート体制など、相手によって説明の深さを変える必要があります。
4.プレゼンテーション
背景、課題、提案、根拠、期待できる効果、次のステップを一つの流れにします。スライドを読むのではなく、相手が判断しやすい順番で説明する力が求められます。
5.質疑応答
想定外の質問、聞き取れない質問、すぐに答えられない質問に対応します。「分かりません」で止めず、質問を確認し、分かる範囲を伝え、後で回答する約束まで行うことが重要です。
6.価格・条件交渉
価格、数量、納期、支払条件、仕様、独占権、サポート範囲などを調整します。単純に値下げを受け入れるのではなく、条件同士を交換しながら合意点を探します。
7.社内調整・海外拠点との会議
顧客への提案を実現するには、製造、技術、法務、財務、物流、経営陣などとの社内調整が必要です。顧客の要望をそのまま伝えるのではなく、背景、重要度、収益やリスクへの影響まで説明します。
8.メール・議事録・フォローアップ
商談後に、合意事項、未決事項、担当者、期限を残します。海外営業では、会議中の流暢さ以上に、認識のずれを防ぐ文書力が重要になることがあります。

海外営業の英語が難しい理由
- 会話の展開を予測できない:準備した説明の後に、相手独自の質問や反論が続きます。
- 相手のアクセントが多様:英語圏だけでなく、世界中の非ネイティブとも話します。
- 商品知識以外も必要:業界、市場、契約、物流、支払い、文化的な前提が関係します。
- 数字と条件の正確性が必要:金額、数量、日付、通貨、納期の聞き違いが損失につながります。
- 沈黙を恐れやすい:早く答えようとして、不利な条件や曖昧な約束をしてしまうことがあります。
- 営業と英語を同時に考える:相手の反応を読みながら、次の質問と英語表現を組み立てる必要があります。
このため、英会話教材の例文を覚えるだけでは足りません。自社の商品、実際の顧客、頻出する反論や条件を使った練習が必要です。
商談では説明より質問を先にする
海外営業の商談で、最初から長い商品説明を始めてしまう人は少なくありません。しかし、相手の課題や判断基準が分からないままでは、提案がずれます。
まずは、次のような質問を準備しましょう。
What are your main priorities for this project?
このプロジェクトで最も重視していることは何ですか?What challenges are you currently facing?
現在、どのような課題がありますか?How are you handling this today?
現在はどのように対応していますか?Who else will be involved in the decision?
ほかに誰が意思決定に関わりますか?What would a successful outcome look like for you?
御社にとって、どのような結果になれば成功ですか?
質問した後は、相手の答えを要約して確認します。
So, if I understand correctly, your main concern is the implementation timeline.
理解が正しければ、最大の懸念は導入スケジュールですね。
この確認を入れるだけで、聞き間違いを防ぎ、相手にも「理解してもらえている」という感覚が生まれます。
海外向けプレゼンは相手の課題から組み立てる
海外向けプレゼンでありがちな失敗は、会社の歴史、拠点数、製品ラインを順番に説明し、相手に関係する価値が最後まで見えないことです。
プレゼンは次の順番にすると伝わりやすくなります。
- 今回理解している相手の状況
- 解決すべき課題
- 提案内容
- 提案を裏付ける根拠・事例
- 導入条件やスケジュール
- 確認したい点と次のステップ
一つのスライドで伝える要点を一つに絞り、「So what?(それが相手にとって何を意味するか)」を英語で一文添えます。専門性の高いメーカー営業は「メーカー・製造業で英語が必要になった人へ」も参考にしてください。
交渉では要求の理由と優先順位を確認する
交渉では、相手の要求に即答する必要はありません。まず理由と優先順位を確認し、価格以外の条件も含めて考えます。
Could you help me understand what is driving this request?
このご要望の背景を教えていただけますか?Which is more important to you, price or delivery time?
価格と納期では、どちらをより重視されますか?We may be able to adjust the price if the order volume increases.
注文数量が増えれば、価格を調整できる可能性があります。I need to confirm this internally before making a commitment.
お約束する前に、社内で確認する必要があります。Let me summarize what we have agreed so far.
ここまでに合意した内容を整理させてください。
「安くできます」ではなく、「もし数量が増えるなら、価格を検討できる」のように条件を結びつけます。また、権限がないことはその場で約束せず、確認期限を伝える方が信頼につながります。
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外資系企業での仕事や海外との交渉では、英語が流暢な人が必ずしも交渉上手とは限りません。相手の意図を確認し、自分の権限と譲れない条件を理解し、合意した内容を言葉にできる人が強いです。英語の勉強も、実際の商談の流れに沿って設計することが大切です。
英語コーチング「be:RIZE」創業者。外資系企業4社での勤務と米国MBA留学を経験。
営業タイプ別に優先する英語を変える
| 営業タイプ | 優先したい英語 |
|---|---|
| 日系企業の海外営業 | 自社製品の価値、日本側の事情、納期・品質・社内調整を伝える |
| 外資系日本法人の営業 | 日本市場と顧客ニーズをGlobal・Regionへ説明し、支援を得る |
| メーカー・技術営業 | 仕様、品質、導入条件、技術的な質問を専門部門とつなぐ |
| 商社・代理店営業 | 売り手と買い手の条件、物流、契約、関係者の利害を調整する |
| 展示会・新規開拓 | 短い自己紹介、見込み客の選別、課題確認、次回面談の獲得 |
| 既存顧客・アカウント営業 | 進捗、利用状況、問題、更新、追加提案を継続的に話す |
商社での取引・交渉については「商社で働く人に必要な英語力とは?」、外資系特有の会議や上司とのコミュニケーションは「外資系で働いているのに英語が話せない」でも詳しく解説しています。
海外営業の実務から逆算する勉強法
ステップ1.実際の営業プロセスを書き出す
見込み客の発見から契約・継続までを並べ、英語が必要になる場面を特定します。「ビジネス英語全般」では範囲が広すぎます。
ステップ2.直近の商談で達成したいことを一つ決める
初回商談なら契約を取ることではなく、「課題と意思決定プロセスを確認し、次回提案の日程を決める」など、現実的な目的にします。
ステップ3.自社専用の頻出表現を集める
過去のメール、提案書、FAQ、議事録から、自社の商品説明、顧客の質問、社内で使う表現を集めます。一般教材より、仕事で再利用できる英語を優先します。
ステップ4.質問と確認表現を先に練習する
商品説明を完璧に暗記する前に、課題を聞く質問、聞き返し、要約、保留、合意確認を練習します。これらは、どの商談でも使えます。
ステップ5.提案を1分・3分・10分で話す
同じ内容を長さ別に準備します。廊下や展示会では1分、オンライン商談では3分、正式なプレゼンでは10分というように、場面に合わせて説明できます。
ステップ6.反論と条件交渉をロールプレイする
「高い」「納期が遅い」「競合の方がよい」「実績が足りない」など、頻出する反論を用意します。回答を一つ暗記するのではなく、背景を質問してから選択肢を出す練習をします。
ステップ7.商談後のメールまで練習する
お礼、理解した課題、合意事項、未決事項、次回日程を短くまとめます。実際の結果を振り返り、聞けなかった表現や言えなかった内容を次の教材にします。
分かったふりをせず正確性を取り戻す英語
海外営業では、分かったふりが最も危険です。次の表現を使い、会話を止めずに正確性を取り戻しましょう。
- Could you say that again a little more slowly?(もう少しゆっくり言っていただけますか?)
- When you say “flexible,” what exactly do you mean?(flexibleとは、具体的にどういう意味でしょうか?)
- Let me make sure I understood the number correctly.(数字を正しく理解したか確認させてください)
- I don’t have that information with me, but I’ll get back to you by tomorrow.(今その情報がないため、明日までに回答します)
聞き返しは英語力不足の証明ではありません。条件を正確に理解するための営業行動です。会議前の準備については「英語会議の前にやるべき準備」も活用してください。
TOEIC・独学・英会話・英語コーチングの使い分け
TOEIC
語彙、文法、リスニング、読解の基礎を確認する目安になります。ただし、高得点だけで商談や交渉ができるとは限りません。実務練習を別に行う必要があります。
独学
仕事で必要な場面を自分で整理できる人に向いています。過去の商談、提案書、メールを使って、自社専用の表現集と想定問答を作りましょう。
オンライン英会話
発話量を増やし、多様な話し方に慣れるのに役立ちます。自由会話だけでなく、自社情報を一般化した商談ロールプレイを依頼すると効果的です。
英語コーチング
商談や海外赴任まで期限がある人、学習時間が限られる人、英語と営業スキルのどこが課題か分からない人に向いています。実務から学習を設計する考え方は「仕事で英語が必要な人に英語コーチングは効果がある?」でも紹介しています。
機密情報を守りながら実務練習をする
実務資料を使う練習は効果的ですが、顧客名、価格、契約条件、未公開製品、個人情報などを、会社の許可なく外部の生成AI、翻訳サービス、講師へ共有してはいけません。
練習時は固有名詞や数値を置き換え、社内の情報管理ルールを確認してください。
海外営業の英語に関するよくある質問
Q.海外営業にはTOEIC何点が必要ですか?
企業の基準や担当業務によって異なります。スコアは基礎力の目安ですが、海外営業では質問、提案、交渉、メールなどの実務技能が必要です。点数だけでなく、担当する商談を英語で進められるかを確認しましょう。
Q.英語が話せなくても海外営業はできますか?
最初から流暢である必要はありません。商品・業界知識を持つ人が、必要な質問、説明、確認表現から身につけて活躍するケースはあります。ただし、準備せず通訳だけに依存すると、顧客の反応を直接つかみにくくなります。
Q.商談前に最低限何を準備すればよいですか?
①商談の目的、②相手に聞く質問5つ、③自社の提案を1分で説明する言葉、④想定される反論、⑤次の行動を確認する表現、の5点を準備してください。
Q.海外の相手との雑談が苦手です。問題ありますか?
雑談は関係づくりに役立ちますが、面白い話をする必要はありません。相手の地域、出張、業界イベントなど安全な話題について質問し、相手の答えに関心を示せれば十分です。
まとめ|質問・提案・交渉・合意を一続きで練習する
海外営業に必要なのは、英語を長く話す力ではありません。相手の課題を聞き、自社の価値を提案し、条件を調整し、次の行動を合意する力です。
まず、直近の商談を一つ選びましょう。そして、商談の目的、質問、1分提案、想定反論、合意確認を準備します。営業プロセスから逆算すれば、勉強すべき英語は具体的になります。
流暢さを待ってから海外営業を始める必要はありません。準備した短い英語で一つずつ商談を動かし、実務の振り返りを次の学習へつなげていきましょう。
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