製薬会社で働いていて、英語の資料は何とか読める。でも、海外本社との会議になると発言できない。専門分野の話だからこそ、間違った表現をしてはいけないと思い、言葉が止まってしまう——。
こうした悩みは、日系・外資系を問わず珍しくありません。製薬業界では、研究開発、臨床開発、薬事、安全性、品質、製造、サプライ、メディカル、営業・マーケティング、事業開発など、多くの部門が国境を越えて連携します。
必要なのは、漠然と「英会話が上手になること」ではありません。自分の専門知識を使い、事実・解釈・リスク・次の行動を英語で正確につなぐ力です。
この記事では、製薬会社の仕事で英語が必要になる場面を整理し、会議・資料・海外本社との仕事から逆算した勉強法を解説します。
製薬会社で英語が必要になる7つの場面
同じ製薬会社でも、部門によって使う用語や成果物は違います。ただし、英語が必要になる場面は大きく次の7つに整理できます。
1.海外本社・グローバルチームとの会議
プロジェクトの進捗、データ、課題、予算、優先順位を共有し、意思決定につなげます。聞いて理解するだけではなく、日本側の事情を説明し、懸念を伝え、期限と担当者を確認する力が必要です。
2.英語の資料・論文・SOPを読む
プロトコル、報告書、論文、スライド、SOP、当局関連文書など、製薬業界は文書量が多い仕事です。全文を訳すのではなく、「今回の判断に必要な情報は何か」を見極めて読む必要があります。
3.臨床開発・薬事・安全性の調整
試験計画、タイムライン、症例登録、データ、当局照会、添付文書、安全性情報などを扱います。数字や事実だけでなく、何が観察結果で、何が仮説なのかを区別して伝える慎重さが求められます。
4.品質・製造・サプライの連携
逸脱、変更、CAPA、出荷、供給不足、製造計画などについて、海外拠点や委託先と確認します。「たぶん大丈夫」で済ませず、影響範囲と対応を明確にする英語が重要です。
5.メディカル・営業・マーケティング
エビデンス、学会、KOLとの情報交換、製品戦略、需要予測、ポジショニングなどをグローバルと議論します。日本市場や医療環境の前提を、海外の相手にも分かる形に翻訳する力が欠かせません。
6.ライセンス・提携・M&A
導入・導出、共同開発、デューデリジェンス、パイプライン評価、収益性の前提などを話し合います。科学、知財、財務、契約、事業性の論点が交差するため、専門家同士の認識をそろえる英語が必要です。
7.メール・チャット・議事録
会議後に決定事項、未決事項、担当者、期限を残します。文章の華やかさよりも、読み手が次に何をすべきか迷わない明確さが大切です。

日系製薬会社と外資系製薬会社で英語の使い方は違う
日系製薬会社:海外子会社・共同開発・海外展開を動かす英語
日系企業では、海外子会社との連携、グローバル試験、海外企業との共同開発、ライセンス、海外買収などをきっかけに、急に英語が仕事の中心へ入ることがあります。
日本側で共有されている背景や意思決定の経緯を、海外メンバーにも分かるように説明する力が重要です。「日本では普通だから」では伝わりません。前提から言語化する必要があります。
外資系製薬会社:日本の事情をGlobal・Regionへ説明する英語
外資系では、GlobalやRegionが決めた方針を理解するだけでなく、日本市場、規制、医療現場、商習慣などを踏まえて修正を提案する場面があります。
会議に参加しているだけでは、日本の優先順位が十分に反映されないこともあります。必要なのは流暢な雑談ではなく、Japanとして何が必要か、その根拠は何か、グローバル計画にどんな影響があるかを短く示す力です。外資系特有の悩みは「外資系で働いているのに英語が話せない」でも詳しく解説しています。
製薬業界の英語が難しい理由
- 略語と専門用語が多い:同じ略語でも部門や会社で意味が違うことがあります。
- 複数の専門領域が交差する:医学・科学だけでなく、規制、品質、財務、契約の論点が同時に出ます。
- 国ごとに前提が違う:規制、承認状況、市場環境、医療制度が異なります。
- 正確性へのプレッシャーが高い:科学的に不正確な発言や過度な断定を避けようとして、発言が遅れます。
- 会議の英語が多様:ネイティブ英語だけでなく、さまざまなアクセントや話し方に対応します。
つまり、難しさの正体は単語力だけではありません。専門知識を持つ人ほど、「この表現で誤解されないか」を考えるため、話せなくなることがあります。
製薬会社の会議は4つに分けて話す
製薬業界の会議では、上手な長文よりも情報の種類を分けることが大切です。
- Fact:データや確認済みの事実
- Interpretation:その事実をどう解釈しているか
- Risk:不確実性や影響の可能性
- Action:誰が、何を、いつまでに行うか
たとえば「遅れています」だけで終わらず、「現在の事実」「原因についての見方」「計画への影響」「次の対応」を分けて話せば、難しい英語を使わなくても仕事は前に進みます。
What data support this conclusion?
この結論を裏付けるデータは何ですか?Is this an observed result or an assumption?
これは観察された結果ですか、それとも仮定ですか?Does this apply to the global program or Japan only?
これはグローバルプログラム全体に当てはまりますか、それとも日本だけですか?What is the regulatory impact?
薬事上の影響は何ですか?Who will prepare the revised document, and by when?
誰が、いつまでに改訂版を作成しますか?
こうした確認表現を先に持っておくと、専門的な議論でも会話に入りやすくなります。
2-e1785721177628.jpg)
私もベアー・スターンズで製薬業界を担当し、日系製薬会社の海外子会社M&Aや買収案件に関わりました。研究開発から承認、製造、販売、提携までがつながる業界だからこそ、英語は単なる会話力ではなく、専門家同士の判断を接続する道具になります。
英語コーチング「be:RIZE」創業者。外資系企業4社での勤務と米国MBA留学を経験。
職種・部門別に優先する英語を変える
| 職種・部門 | 優先する英語 |
|---|---|
| 研究・臨床開発 | データ、プロトコル、進捗、リスクを説明し、科学的な質疑に答える |
| 薬事 | 当局要求、申請戦略、照会事項、GlobalとJapanの差分を整理する |
| 安全性 | 事実、評価、未確認事項、報告対応を慎重に区別する |
| 品質・製造・サプライ | 逸脱、変更、CAPA、供給影響、期限を具体的に確認する |
| メディカル | エビデンスを正確に伝え、科学的な質問に対応する |
| 営業・マーケティング | 市場データ、日本固有の事情、予測と施策の根拠を説明する |
| BD・経営企画 | パイプライン、提携条件、評価前提、シナリオと論点を整理する |
全部を同時に勉強する必要はありません。まず、自分が次の3か月で最も頻繁に使う成果物と会議を一つ選びます。
製薬会社の実務から逆算する英語の勉強法
ステップ1.年間・プロジェクトの仕事を地図にする
定例会議、申請、監査、学会、予算、製品計画などを並べ、英語が必要になる場面を洗い出します。目的のない英会話学習を避けるためです。
ステップ2.直近の成果物か会議を一つ選ぶ
「来週のGlobal会議で進捗を2分で説明する」のように、期限と行動が見える目標にします。
ステップ3.実務で使われている英語を集める
過去の議事録、承認済み資料、社内用語集、頻出メールから、実際に会社で使われる表現を集めます。市販教材の例文より再現性が高くなります。
ステップ4.事実・解釈・リスク・行動で話す
説明を4つに分け、最初は一項目一文で準備します。英語を複雑にする前に、論理を明確にします。
ステップ5.想定質問と反論を使って練習する
原稿を読むだけでなく、「根拠は?」「日本だけの問題?」「スケジュールへの影響は?」と質問される練習をします。会議で止まる原因は、準備した説明の後にあることが多いからです。
ステップ6.会議後に決定と行動を文書化する
決定事項、未決事項、担当者、期限を短い英語で残します。聞き取りが曖昧だった箇所も発見でき、次の会議の教材になります。
会議直前の具体的な準備は「英語会議の前にやるべき準備」も参考にしてください。
TOEICや読解力だけでは会議に対応できない
TOEICの点数が高く、論文や資料を読めても、会議で話せない人はいます。読む仕事では自分の速度で前後を確認できますが、会議ではその場で論点を捉え、質問し、立場を示す必要があるからです。
逆に、英語が完璧でなくても、論点を整理し、短い確認質問を使える人は意思決定に参加できます。メーカー・製造部門の海外連携については「メーカー・製造業で英語が必要になった人へ」も関連します。
独学・オンライン英会話・英語コーチングの使い分け
独学が向く人
学習課題が明確で、自分で継続できる人には向いています。社内資料の表現整理、リスニング、音読、頻出語彙の反復から始めると効果的です。
オンライン英会話が向く人
発話量を増やしたい人に向いています。ただし、毎回自由会話にせず、実際の報告や質疑を一般化した題材で練習しましょう。
英語コーチングが向く人
仕事が忙しく学習設計が難しい人、会議・プレゼンなど期限が迫っている人、自分の弱点がリスニング・発話・論理整理のどこにあるか分からない人に向いています。仕事に合わせた学習設計については「仕事で英語が必要な人に英語コーチングは効果がある?」でも解説しています。
機密情報を守りながら英語を練習する
製薬会社の学習では、臨床データ、患者情報、化合物・製品情報、未公表の計画などを扱う可能性があります。会社の許可なく、外部の生成AI・翻訳サービス・講師へ入力または共有してはいけません。
練習するときは、固有名詞、数値、製品名、施設名を置き換え、社内規定と情報管理ルールを必ず確認してください。英語力を上げることと、機密を守ることは両立させる必要があります。
製薬会社の英語に関するよくある質問
Q.製薬会社で働くにはTOEIC何点が必要ですか?
会社や職種によって基準は異なります。スコアは基礎力の目安になりますが、実務では会議で質問する、データを説明する、メールで行動を確認するといった技能が必要です。点数だけで判断せず、担当業務から逆算しましょう。
Q.医療英語の単語帳から始めるべきですか?
自分の部門で頻出する用語は必要ですが、広い医療用語を最初からすべて覚える必要はありません。自分が扱う文書、会議、製品領域から集める方が効率的です。
Q.英語が苦手でも外資系製薬会社で働けますか?
職種やポジションによりますが、専門性を評価されて入社し、後から英語が課題になる人はいます。重要なのは、必要な場面を限定し、会議・資料・メールを一つずつ仕事に使える状態へ変えることです。
Q.まず何から勉強すればよいですか?
次に予定されている英語会議を一つ選び、①冒頭の進捗説明、②想定質問への回答、③決定事項の確認、の3点を準備してください。教材探しから始めるより、必要な英語が具体的になります。
まとめ|専門情報を整理し、次の行動を合意する
製薬会社で必要な英語力は、難しい医療用語をたくさん知っていることだけではありません。専門情報を整理し、事実と解釈を分け、リスクを確認し、次の行動を合意する力です。
日系企業なら海外子会社や共同開発先へ日本側の背景を伝えること、外資系ならGlobalやRegionへ日本の事情と提案を示すことが求められます。
まずは直近の会議や資料を一つ選び、実務から逆算して準備してください。英語そのものだけでなく、「何を判断してもらうのか」が明確になれば、発言は短くても仕事を動かせます。
英語の発表原稿は準備できても、国際学会の質疑応答で質問を聞き取れず、答えられない研究者・医師は少なくありません。「国際学会の英語が聞き取れない」では、発表・Q&A・ポスター討論・懇親会から逆算する練習法を解説しています。
医師の方へ:論文・国際学会・外国人患者対応まで含めた全体像は、医師に必要な英語力とは?で整理しています。
製薬企業を含む企業R&Dで、仮説・実験条件・結果・解釈を海外チームと英語で議論する方は、「研究開発職に必要な英語力とは?」も参考になります。
職種にかかわらず、仕事で英語が必要になったときの全体的な学習順は、仕事で英語が必要になった社会人は何から始める?で整理しています。
実際の会議で使う短い表現や会話例は、b-cafeの「製薬会社で使う英語フレーズ|薬事・安全性・品質・海外本社との会議」で場面別に確認できます。




