IR(Investor Relations)担当として、英文の決算資料やプレスリリースは翻訳会社と作れる。しかし、海外機関投資家やアナリストとの面談になると、質問を聞き取れず、数字の背景をその場で説明できない。想定問答にない質問が来ると、答えてよい範囲の判断も含めて頭が止まる——。
IR担当者に必要な英語は、決算用語を英訳する力だけではありません。投資家が知りたいのは、数字そのものに加えて、なぜ変化したのか、会社はどう見ているのか、何を今後の注目点としているのかです。しかも、正確性、一貫性、公平な情報開示を守りながら、追加質問へ対話で対応する力が求められます。
この記事では、IR担当者に必要な英語力を、英文開示、決算説明会、海外投資家面談、カンファレンス、質疑応答、経営陣との準備などの実務から逆算して解説します。
この記事の結論
IR担当者に必要なのは、難しい金融英語を大量に暗記することではありません。開示済みの事実、業績の変動要因、会社の見方、今後の注目点を分け、質問の意図を確認しながら、答えられる範囲を正確に示す力です。
IR担当者に必要な英語力は5つある
| 必要な力 | 実務で行うこと | よくある壁 |
|---|---|---|
| 財務・事業情報を正確に読む力 | 決算資料、開示文書、KPI、事業報告を理解する | 用語は分かっても重要な変化を素早く抽出できない |
| 数字の背景を説明する力 | 増減要因、事業別の動き、一時要因を伝える | 数字を読み上げるだけになり、意味が伝わらない |
| 投資家の質問を処理する力 | 質問の前提・期間・指標・知りたい判断を確認する | 長い質問を一度で理解して即答しようとする |
| 答えられる範囲を管理する力 | 開示済み情報と未公表情報を区別して回答する | 答えを避けすぎる、または不用意に踏み込む |
| 会社のメッセージを一貫させる力 | 経営陣・経理財務・事業部と表現を合わせる | 日本語版と英語版、話者ごとにニュアンスがずれる |
しゅみすけ
IR担当者が英語を使う8つの場面
1. 英文決算資料・適時開示を作成する
決算短信、決算説明資料、統合報告書、プレスリリースなどを英文化します。翻訳会社へ依頼する場合も、財務用語、事業名、KPI、過去資料との表現統一を確認する必要があります。
2. 英語の決算説明会・プレゼンを行う
売上や利益を読み上げるだけでなく、前年同期・計画との差、セグメント別の動き、主要因、今後の注目点を伝えます。資料を見れば分かる数字より、その数字をどう読むべきかが重要です。
3. 海外機関投資家との個別面談に対応する
投資方針や関心分野が異なる投資家から、事業戦略、資本配分、収益性、競争環境、ガバナンスなどについて質問を受けます。想定問答を読むのではなく、相手の前提へ合わせて答える必要があります。
4. 海外アナリストの質問へ回答する
モデル作成に必要な数字の確認から、KPIの定義、変動要因、見通しの前提まで質問されます。期間、対象事業、会計上の数字か管理指標かを確認してから答えます。
5. 投資家カンファレンス・ロードショーへ参加する
短時間で会社概要と投資ポイントを説明し、連続する面談へ対応します。初めて会社を知る投資家と既存株主では、必要な背景説明が異なります。
6. 海外株主からの問い合わせへメールで回答する
配当、株主総会、開示資料、ESG情報などの問い合わせへ対応します。回答できる情報を明確にし、必要に応じて公開資料の該当箇所へ案内します。
7. 経営陣の英語プレゼンと想定問答を準備する
CEO・CFO・事業責任者が自然に話せる表現へ整えます。英文として正しいだけでなく、話者の言葉として口から出る長さと語彙にすることが重要です。
8. 経理財務・事業部・法務と開示内容を確認する
数字の正確性、事業説明、将来情報、表現の一貫性を社内で確認します。IR担当者は、専門部門の内容を投資家が理解できる言葉へ変換する橋渡し役です。

業績説明は4つの箱に分ける
数字の説明を長い日本語から英訳すると、原因と評価が混ざりやすくなります。まず次の4つに分けましょう。
- 事実:どの指標が、どの期間と比べて、どれだけ変化したか
- 変動要因:数量、価格、製品構成、為替、一時要因など何が動かしたか
- 会社の見方:構造的な変化か、一時的な変化かをどう捉えているか
- 今後の注目点:次の期間に何を確認すべきか
Operating profit decreased year on year.
The main factors were higher raw material costs and increased marketing expenses.
We view the cost increase as partly temporary, while the marketing investment is strategic.
Going forward, the key points will be pricing progress and the contribution from new products.
会社の正式な開示方針・表現がある場合は必ずそれを優先します。学習では、実際の開示資料を匿名化し、各文が4つのどこに当たるかを確認してください。
海外投資家との質疑応答で役立つ英語表現
| 目的 | 英語表現 |
|---|---|
| 質問の対象を確認する | Are you referring to the domestic business or the group as a whole? |
| 期間を確認する | Are you asking about this fiscal year or the medium term? |
| 質問を要約する | If I understand correctly, your question is about… |
| 開示済み事実を示す | Based on the information we have disclosed… |
| 主要因を述べる | The main driver was… |
| 一時要因を区別する | This was mainly due to a temporary factor. |
| 答えられる範囲を示す | What I can say at this point is… |
| 未公表情報を避ける | We have not disclosed specific figures on that point. |
| 公開資料へ案内する | Please refer to page 12 of our latest earnings presentation. |
| 後日確認を約束する | Let me confirm that internally and follow up with you. |
投資家の長い質問は「前提・対象・指標・時間軸」に分ける
海外投資家の質問は、見解や他社比較を含み、長くなることがあります。最後の一文だけを聞いて答えると、本来の意図から外れる場合があります。
- 前提:投資家は何を既知の事実として置いているか
- 対象:会社全体か、特定事業・地域・製品か
- 指標:売上、利益率、数量、キャッシュフロー、ROICなど何を尋ねているか
- 時間軸:当四半期、通期、中期のどれか
すべてを聞き取れなくても、“Are you mainly asking about the margin outlook for the second half?” と論点を戻せれば、回答を組み立てられます。
IR担当者が英語で苦労しやすい5つの理由
1. 英文資料作成とリアルタイム会話は別の技能だから
資料は確認・修正を重ねられますが、面談では質問を聞きながら、数字と開示範囲を判断し、回答を作る必要があります。翻訳経験が豊富でも、対話練習は別に必要です。
2. 数字と事業背景を同時に処理する必要があるから
投資家は数字だけでなく、その変化が事業の競争力や将来へ何を意味するかを尋ねます。財務用語に加え、自社事業を平易に説明する語彙が必要です。
3. 想定問答から外れると止まりやすいから
想定問答は準備に役立ちますが、文章ごと暗記すると、質問の表現が変わっただけで答えにアクセスできなくなります。回答を論点と骨格で覚え、相手に合わせて短く組み立てます。
4. 答えてよい範囲の判断が必要だから
英語表現を考えながら、同時に情報開示上の判断も行います。答えられない場合の表現を事前に持ち、曖昧な推測で埋めないことが大切です。
5. 間違えられない意識が強くなるから
IRでは言葉の重みが大きいため、慎重になるのは当然です。ただし、完全な長文を作ろうとすると沈黙が長くなります。まず質問を確認し、開示済み事実から一文ずつ答えます。
IR・経理財務・広報の英語は似ているが目的が違う
| 職種 | 英語を使う主な目的 | 中心となる情報 |
|---|---|---|
| IR | 投資判断に必要な情報と会社の見方を伝える | 業績、戦略、資本政策、KPI、リスク |
| 経理・財務 | 数字を正確に集計し、処理と差異を確認する | 会計処理、連結、決算、資金、監査 |
| 広報・PR | 会社の活動を社会・メディアへ伝える | ニュース、ブランド、社会的意義、評判 |
IR担当者が経理財務を兼務する会社も多くあります。海外子会社との連結や差異確認が中心の方は、経理・財務の仕事で英語が必要になった人の勉強法も参考になります。
日系企業と外資系企業でIR英語の入り方は違う
日系上場企業では英文開示と海外投資家対応が増えやすい
日本語資料を基礎に英文資料を作成し、海外投資家比率の上昇や海外IRの強化をきっかけに面談が増えます。日本語で合意したメッセージを、英語でも同じ精度と温度感で伝える必要があります。
外資系企業・海外上場企業では本社との情報調整が増えやすい
グローバル本社の開示方針やメッセージを日本市場へ適用し、日本側の投資家やメディアの関心を本社へ説明します。時差のある会議や短い報告も日常的になります。
英語会議や外国人上司・同僚とのコミュニケーション全般に課題がある方は、外資系で働いているのに英語が話せない人の勉強法もご覧ください。
IR担当者の英語を身につける8つの勉強法
1. 年間のIR業務を場面別に棚卸しする
決算、株主総会、統合報告書、個別面談、カンファレンスなどを並べ、英語使用頻度と重要度が高い場面から選びます。
2. 自社の英文開示資料を教材にする
市販教材より先に、承認済みの決算資料、統合報告書、過去のQ&Aから頻出表現を集めます。会社固有の表現を一貫して使えることが重要です。
3. 数字を「比較・要因・意味」で説明する
数値を読み上げた後に、何との比較か、何が動かしたか、会社はどう見ているかを各一文で加えます。
4. 想定問答を文章ではなく論点カードにする
質問、回答の結論、根拠となる開示済み事実、答えられない範囲へ分けます。質問の言い方が変わっても同じ論点へ戻れるようにします。
5. 長い質問を要約して返す練習をする
質問を聞いた後、対象、指標、時間軸を短く言い直します。理解確認の一文があれば、誤った前提で長く答えることを防げます。
6. 深掘り質問を含むロールプレイを行う
最初の回答に対して、“Why?” “How sustainable is that?” “What changed?” と追加質問を受けます。暗記回答ではなく、開示済み情報から組み立て直す練習をします。
7. CEO・CFOが話せる長さへ英文を短くする
書き言葉として正しくても、口頭では長すぎる文があります。一文一論点にし、自然な間を取れる長さへ整えます。
8. 面談後に詰まった質問を再利用する
聞き取れなかった質問、説明しにくかった要因、長くなった回答を記録し、次回使える短い骨格へ修正します。
忙しいIR担当者向け・1日60分の学習例
| 時間 | 内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 15分 | 財務・事業の頻出表現と数字の音読 | 正確な発話の土台を作る |
| 15分 | 自社の英文開示資料を音読・要約 | 会社固有の表現を自動化する |
| 15分 | 業績を4つの箱で説明する | 数字の意味を短く伝える |
| 15分 | 投資家の深掘り質問へ答える | 想定外のQ&Aへ備える |
独学・英会話・英語コーチングの使い分け
独学は、承認済み資料と過去のQ&Aから必要表現を抽出し、継続して発話練習できる人に向いています。英会話レッスンでは、一般的なフリートークではなく、決算説明と投資家面談のロールプレイを行いましょう。
英語コーチングは、英文資料は作れるのに会議で質問を処理できない、海外IRまで期限がある、読む・聞く・話すのどこから戻るべきか分からない場合に向いています。IR実務を分解し、基礎力、リスニング、回答構築、ロールプレイの順番を設計します。
IRの実務から、必要な英語を整理しませんか?
be:RIZEでは、英文決算説明、海外投資家面談、質疑応答など、実際の仕事から必要な英語と学習順を設計します。
IR担当者の英語に関するよくある質問
IR英語は何から勉強すればよいですか?
自社の承認済み英文開示資料から、業績、変動要因、戦略、見通しに使う表現を集めてください。そのうえで、資料を見ずに短く説明し、追加質問へ答える練習を行います。
TOEICの点数が高ければ海外投資家対応はできますか?
基礎語彙・文法・リスニングの土台にはなりますが、IRでは財務・事業の理解、質問意図の確認、開示範囲の判断、回答の組み立てが必要です。点数とは別に実務ロールプレイを行ってください。
想定問答を暗記すれば十分ですか?
準備には有効ですが、文章単位の暗記だけでは質問の表現や順番が変わったときに対応しにくくなります。回答を結論、根拠、補足、答えられない範囲へ分けて覚えましょう。
答えられない質問が来たらどうすればよいですか?
推測で埋めず、質問を確認したうえで、開示済み情報の範囲を示します。未公表の具体的数値などは、自社の開示方針に従って回答を控え、公開資料や後日の確認へ案内してください。
まとめ|会社の数字を、投資家が判断できる英語へ変える
IR担当者の英語は、財務用語の翻訳だけではありません。開示済みの事実、変動要因、会社の見方、今後の注目点を分け、投資家の質問意図に合わせて回答を組み立てる力です。
IRを担当している時点で、会社の数字と事業をつなぎ、社内外の表現を調整する専門性はすでにあります。必要なのは、その判断の順番を英語でも再現し、質問を受けながら短く取り出せるようにすることです。まず直近の決算から一つの指標を選び、4つの箱で1分以内に説明してみてください。
※本記事は一般的な英語学習情報です。実際の投資家対応では、金融商品取引法、取引所規則、フェア・ディスクロージャー・ルール、所属企業の情報開示方針および法務・コンプライアンス部門の指示に従ってください。未公表の重要事実や個別投資判断に関わる情報の取り扱いには十分ご注意ください。
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